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広島高等裁判所 昭和43年(ネ)385号 判決 1969年4月24日

控訴人 関門家具工業株式会社

補助参加人 河内山季雄 外三名

被控訴人 桶辰商事株式会社

主文

原判決を取り消す。

本件を山口地方裁判所下関支部に差し戻す。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。山口地方裁判所下関支部昭和四一年(ケ)第六号不動産競売事件において昭和四二年三月二八日付で作成された配当表のうち、原審脱退被告有限会社山陽新建材に対する部分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の関係は、左記のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

一、控訴人の主張

(一)  控訴人は以下に述べるように本訴提起の利益を有する。

控訴人は、本件配当表に記載されている債権者、すなわち訴外株式会社山口銀行、有限会社山陽新建材、補助参加人鄭、同今村、同日光産業有限会社のいずれに対しても債務があり、本件配当金がいかなる順位において分配されるか、いかなる金額が存在するか等につき法律上利害関係がある。

有限会社山陽新建材が譲り受けたという乙区二番根抵当権は、その被担保債権の完済によりすでに消滅していたので、控訴人及び補助参加人河内山は、右根抵当権が存在しない旨告げて補助参加人鄭、同今村及び同日光産業から金融を受け本件不動産に抵当権を設定したのである。このような事情からしても、本件配当金が本来その配当を受けえない有限会社山陽新建材(その承継人である被控訴人)に配当されることについて、一番の利害関係を有するのは債務者たる控訴人であつて、これに異議を申し立てる利益があることは明らかである。

物件所有者には配当に対し異議を申し立てる利益があるが債務者にはそのような利益はないとする見解は、失当である。なんとなれば、債務者でない物件所有者は、配当金額を超える債務がいかほどあろうと物的有限責任しか負わないので残債務についてはさほど利害関係がないのに対し、債務者は無限に債務を履行しなければならないので、その残額がいかなる性質の債務であるかにつき利害関係を有するからである。

(二)  有限会社山陽新建材と被控訴人との間で本件配当金請求権の譲渡行為がなされたこと自体は認める。

二、被控訴人の主張

控訴人が本訴提起の利益を有しない理由を次のとおり補足する。

任意競売手続は要するに担保物件の所有者と競落人との間の担保物件の売買で、これに公の機関が干与する手続であり、担保権者がその担保物件から優先弁済を受ける手続である。従つてその手続は簡易迅速に進行しなければならない。だからこそ、任意競売では強制競売と異なり執行力ある正本を有しない一般債権者の配当要求はこれを許さず、右正本を有する債権者のほかは物上担保権者のみがその順位に従つて弁済を受けることができる。それらの者の権利の存否、順位等は記録によつて容易に知ることができ、民訴法六三三条、六三四条に定める債権確定の方法に関する法則は任意競売には準用されないから、そのために競売手続の完結が遅延するということはないのである。売得金の配当が客観的にみて正当でなかつた場合には、任意競売手続の完結した後でも、担保権者相互間又は債務者と担保権者の間で実体法に基づいて調整することができる。

控訴人の主張するような債務者の利害関係は、仮にあつたとしても事実上又は経済上の利害関係にすぎず、法律上の利害関係ではない。物件所有者は、正当な配当権利者に配当して残金がある場合には、その残金を受領する権利があるから、売得金が正当に配分されることについて法律上の利害関係を有するということができるが、所有者でない債務者にはそのような権利はないから、法律上の利害関係を有するとはいえない。

理由

原審における本件の経過をみると、原告(控訴人)と被告(山陽新建材)との間に配当異議の訴訟が係属中、参加人(被控訴人)が被告からその異議の対象とされている配当金請求権を譲り受けたとして「訴訟引受参加の申立」をなし、これに伴い被告が訴訟から脱退したものである。右の申立は、係属中の訴訟に第三者が自ら加入しようとするものであるから、民訴法七四条による訴訟引受の申立ではなく、同法七三条・七一条による参加の申立と解すべきである(右参加人のように訴訟の目的たる「債務」の承継人も七三条・七一条の参加をなしうることについては、最高裁判所昭和三二年九月一七日判決・民集一一巻九号一五四〇頁参照)。

ところで、七三条・七一条による参加は訴の提起たる実質を有するから、その申立をなすに当つては従前の訴訟当事者に対する参加人の請求を提示することを要し、裁判所は、原告の被告に対する従前の請求と合わせて、右の参加人の請求について審理判決することとなるのである(原被告の一方が脱退すれば、その他方に対する参加人の請求だけが審判の対象となる)。そのことは、訴訟の目的たる「債務」の承継人が参加する場合においても変りがない。この場合、原告が被告に対する従前の請求と同様の請求を参加人に対してしようとするのであれば、参加人に対し反訴を提起してその請求をすべきである。参加の結果当然に-反訴の提起なしに-原告から参加人に対し右のような請求がなされているものとして取り扱うことはできない。

してみると、本件の場合裁判所は参加人の請求について審理判決すべきであり、原告から参加人に対する訴(反訴)は提起されていないのであるから、これについて判決をする余地はないものといわなければならない(ただし、本件参加申立書には参加人の請求が明示されておらず、民訴用印紙法五条ノ二に従つた印紙の貼用がなされていないから、それらの点を補正させたうえで参加人の請求の当否につき審判すべきである)。しかるに、原判決が参加人の請求について判断せず、原告の参加人に対する訴が存在することを前提としてこれを却下したのは、違法であつて、取消を免れない。

よつて、原判決を取り消し、参加人の請求につき一審の判断を経ていないので本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻川利正 村岡二郎 丸山明)

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